ロードバイクメーカー解説、8回目の今回は「BMC」を解説していきます。
引用:BMC
BMCの歴史
BMCの始まりは、1986年にアメリカ人の「ボブ・ビゲロー」がイギリスの自転車メーカーである「ラレー」の自転車を組み立て、販売する代理店を設立したことです。その後1994年にラレーとの契約が切れると、自社ブランドBMCとして、自転車の製造を開始します。
引用:ラレー
BMCの正式名称は、B:Bigelow、M:Mounting、C:Company 言います。B:ビゲローとC:カンパニーの由来は分かると思いますが、M:マウンティングとなっている理由は、BMCが創業当初はマウンテンバイクが製造の主力だったとこに由来します。ただ、その後ロードバイクの製造が主力となると、BMCは、Bicycle Manufacturing Company(自転車製造会社)という名称がよく用いられるようになりました。
BMCは、当初経営が上手くいかず、苦労していましたが、1998年にスイスの資産家であり、自転車が好きな、補聴器メーカーフォナック社の会長、アンディ・リース氏が共同経営者になります。
アンディ・リース氏
引用:BMC
2001年には、リース氏がBMCを買収して、拠点をスイスに移します。BMCは、フォナック社のチーム「フォナックレーシングチーム」に機材を供給するようになり知名度が徐々に上がっていきます。そして、2006年には、フォナックレーシングチームのエース、「フロイド・ランディス」がツールドフランスで個人総合優勝を果たします。
フロイド・ランディス
引用:Wikipedia
しかし、後にフロイド・ランディスがテストステロン、自己輸血等のドーピングをしていたことが判明し、フォナックレーシングチームは、解散に追い込まれてしまいます。
その翌年の、2007年にはアスタナプロチームに機材を供給します。しかし、同年のツールドフランスで、アスタナプロチームの「アレクサンドル・ヴィノクロフ」の血液ドーピングが発覚します。このようなことから、BMCはグランツールの舞台から姿を消すことになってしまいます。
アレクサンドル・ヴィノクロフ
引用:Wikipedia
それでも、BMCは諦めずに同年2007年にBMCレーシングチームを結成、グランツールに復旧することを目指します。2011年に、UCIプロコンチネンタルチーム入りを果たし、ツールドフランスへ参戦し、悲願のツールドフランス総合優勝を果たします。その後、2018年をもって、BMCレーシングチームのスポンサーから撤退。2019年からはチームディメンションデータ(2022年からは、チームベカとなりコンチネンタルチームに降格)に機材を供給。現在(2021年から)は「AG2R・シトロエン・チーム」に機材供給をしています。ちなみに、現在のBMCレーシングチームは、CCCチームとなりジャイアントが機材を供給しています。
BMCの技術
ツールドフランス優勝という、結果をもたらした理由の一つが、BMCの新しい技術開発に余念がないといった、企業姿勢です。たとえば、2005年には、カーボンナノテクノロジー(カーボン繊維を固めるためにカーボンナノチューブを使用)をフレームに採用した、世界初のロードバイクSLC01を登場させます。このSLC01は、弱虫ペダルの主人公である小野田坂道が乗っているモデルでもあります。ちなみに、小野田坂道の乗っているモデルは、SLC01のなかでも特別なツールドフランス優勝記念の「マイヨジョーヌ・イエロー エヴァンスモデル」という141台限定(定価126万円)だったりします。
引用:弱虫ペダル
他にも、現在では他のメーカーでも目にするフレーム形状である、トップチューブとシートチューブの接合部よりも下にシートステーを接合するという、自転車の反応性に直結するBB周辺の横方向剛性を損なうことなく、シートポスト上部を前後方向へしならせて快適性を確保する、独特な形状をiSC(インターロックスケルトンコンセプト)として早くから採用しています。
写真は、メリダの「リアクト400」トップチューブとシートステーの接合位置が違うことがわかる。
最近でも、風洞実験は当然として、スイス大学と共同開発した、有限要素解析(数値解析法)と探索手法(条件に合うデータを探し出す方法)を組み合わせたソフト、ACE(アクセラレイトコンポジットエボルーション)を用いることで、無数のシュミレーションモデルを生成し、フレーム構造を突き詰めています。
ハイエンドモデルは、最近までスイス本国で生産していましたが、現在はコストの問題があり台湾(おそらくディアー社)でのOEM生産となっています。
BMCのロードバイク
BMCのロードバイクを簡単に紹介します。
まずは、オールラウンド用のアルトチュードシリーズからです。(アルトチュード=高度)
エントリーグレードのアルミロードバイク、チームマシンALR One、値段は198000円。シートポスト、フロントフォークにカーボンを採用、コンポには、ロングライドからレースまで対応できるシマノ105を採用と、エントリーグレードとしては、十分な性能をもっているロードバイクです。初めて買うロードバイクでBMCを買いたい人に、お勧めです。
チームマシンALR One
引用:BMC
もう一台アルトチュードシリーズから紹介します、それは先ほど弱虫ペダルの主人公小野田坂道の乗るロードバイとして出てきた「SLC01」の後継モデルである「SLR01」、BMCのフラグシップモデルです。SLR01は、BMCの技術を結集したロードバイクで、SLC01比で25%の高剛性化を達成すると、同時にフレーム重量815g(2018年モデル)と十分な軽量性を持っているロードバイクです。
SLR01
引用:BMC
続いて、エアロシリーズから
「チームマシンRoad 01」、BMCのエアロロードバイクで、先ほどのSLR01と比較して40km巡行でエアロ効果により6~12[W]のパワーをセーブ(トラックにおける実走の結果)することができるそうです。このようなエアロ性能を実現するために、ICSエアロコックピットと呼ばれる、エアロ形状のハンドルと専用ステムにより、ケーブル類を全て内装、フロントのディスクローターにはカーバを設置し乱気流を抑える設計となっています。そして、見た目上最大の特徴は、ボトルゲージだと思います。このボトルゲージは、サイクルアクセサリーで有名なエリート社との共同開発で開発したボトルゲージで、フレームに埋め込むような形で設置され、他のエアロロードでは、なし得なかった空力性能を実現しています。
チームマシンRoad01
引用:BMC
【Road01のエアロ効果】
エアロロードバイク「Road01」は、風洞実験においてヨー角0°のとき、SLR01と比較して40㎞/h巡行時で−11.5[w]のパワー低減効果があるそうです。さて-11.5[W]というのは、実際のレースにおいてどのような結果をもたらすのでしょうか。体重65㎏の人がSLR01で距離40㎞を巡行40㎞/hで出した出力と同じ出力でRoad01に乗ったとして、どのような差が生まれるのか計算してみます。
[前提条件](他の条件は下記)
・体重:65kg
・車重:7.1[kg](SLR01),8.2[kg](Road01)
・風速:0[m]
・勾配:0[%]
・CdA(前方投影面積):0.277[m^2](SLR01のCdAを一般的なロードバイクでドロップハンドルを握っていると仮定)
上記の条件で、SLR01で40㎞/h巡行をするには、282.1967[W]必要です。
一方Road01では、270.6967[W]で40㎞/h巡行をすることができます。
さてこの2台で距離40㎞のレースをするとどのような結果になるでしょうか?
SLR01は、40km/hで距離40㎞を走り、当然1時間でゴールします。
一方、Road01はエアロ効果によりSLR01と同一の出力で40.5612km/hを出すことができるので、59分10.19秒でゴールすることができます。距離にして、553.43m、平地においては圧倒的な差を付けることができると言っていいでしょう。
他の計算条件:温度293.15[K],転がり係数0.005,駆動系抵抗5[%],重力加速度9.8066[m/s^2],空気密度1.2043[kg/m^3],圧力1013.25[hPa],気体定数2.87
他にもBMCでは、様々なロードバイクを設計、販売しているので、興味をもった人は、ぜひ調べてみてください。
次回は、フジを解説予定です。