2016年に史上初めてMadoneやVenge Viasなどの完全なケーブル内装式を採用したロードバイクが発売されて以来、エアロロードを代表して続々とケーブル内装式が増えています。
今回はケーブル内装式のメリット・デメリット、「どれだけのエアロ効果があるのか」を紹介していきます。

ケーブル内装式のメリット・デメリット
具体的なエアロ効果を確かめる前にケーブル内装式のメリット、デメリットを簡単に整理しましょう。
メリット
・すっきりしてかっこいい!
・ケーブルによる空気抵抗が無くなる
・外的要因でのケーブル断線がしづらい(特に電動)
・フロントバッグの取り付けが容易
デメリット
・取付け作業(メンテナンス性)が悪い
・比較的価格が高い
このようにケーブル内装式にはメリットだけで無く、デメリットもあります。では早速ケーブル内装によってどれだけ速くなるのかを見ていきましょう!
ケーブル内装式によるエアロ効果の実験
こちらの実験ではVengeやTarmacなど様々な最速バイクを生みだしてきたスペシャライズドの風洞実験施設Win Tunnel(ウィントンネル)を用いています。参考動画はこちら
1.実験条件
実験で使用するバイクはスペシャライズドのRoubaix「機械式変速、油圧式ディスクブレーキ」を使用します。人は乗車させずにバイクのみでの実験です。
Win Tunnelを使用して時速45kmを再現し、ケーブルのある場合とケーブルを外した状態(ケーブル内装式を再現)で比較します。
2.実験結果
ケーブルの無い方が40km走行した際、12秒速いという結果になりました。
ケーブルありで時速45kmで距離40km走行した場合と比較し、ケーブルの無い方が12秒速く40km先に到着するということです。
これはケーブルを4本減らすことによって4.02W削減(時速45km走行時)出来るということです。
実験結果から速度域ごとの出力の低減効果を算出しました。
また、それぞの速度において、空気抵抗低減によりどれほど速度が向上するのかを算出しました。
時速40km(ケーブルあり)と同じ出力で自転車を漕いだ時ケーブル無しだと時速40.15kmに速度が向上するという意味です。

さて、このような僅かな速度の上昇は比較的短距離の多いホビーレースでも効果はあるのでしょうか?
距離20㎞の短距離レースにおいて、ケーブルのあり、なしで各速度域において、何秒の差が生まれるのかを算出しました。
結果は、ホビーレースでの速度域35km/h、40km/hにおいて、7秒程度の差が生まれることがわかりました。
考察
この実験はスペシャライズドのWin Tunnelの実験シリーズの中で唯一人間を乗せずに実験を行っています。そのことからこの実験は少し疑問を持たれている部分があります。
コメント
・人が乗っているバイクを見るとケーブルは人のシルエットに収まっているので、人を乗せて実験をやってほしかった。
・人を乗せていないのは実験結果が良くないからなのでは無いか?
確かに前面から見た際にケーブルは人に大きく被さる部分にはあるので、乗車時は効果が4.02wより少なくなる可能性はあると思います。
例えば、GIANTのTCRは100万円以上するフラグシップモデルでもケーブル内装式ではありません。
これはGIANTが空気抵抗を軽視しているというわけでは無く、GIANTも自社の風洞施設を用いてテストを重ねて開発していますが、メンテナンス性を考慮しケーブルを内装しない選択をしています。

動的マネキン、回転するホイール、動くドライブトレインにより、できうる限り最も「現実世界」に近い空力解析を行うことが可能となりました。この骨の折れるテスト手順により、新しいTCRのデザインを生み出し、ライダーとバイク一体での空力を考慮したシステム全体を最適化することができたのです。
引用:giant
同じく、ジャイアントのエアロロードであるプロペルはケーブル内装式にしているため、ジャイアントもケーブル内装にエアロ効果があるのは確認しているものと思われます。

また、2022年モデルのScottのSPPEDSTER50は7×2速のTourneyを使用しており、価格は約12万円のエントリーモデルであるのにも関わらずケーブルは内装式になっており、ケーブル内装式は今の自転車業界のトレンドと言えるでしょう。

まとめ
ケーブル内装には様々なメリットもありますが、メンテナンス性が悪いという部分も無視できるものではありません。
エアロ効果の部分では4.02wという小さな数値ですが「マージナルゲイン」の考え方では決して無駄では無い数値だと考えます。
マージナルゲインとは?
「チーム・スカイ」を総合優勝に導いたゼネラルマネージャーであるブレイルスフォードが提唱した考え方です。1%の戦略とも呼ばれ、小さな改善を徹底的に積み重ねていくことで最終的な成果を目指します。
「小さな積み重ね=大きな成果」
リム差で勝敗が分かれることもある自転車競技にはケーブル内装式という小さな積み重ねが大きな成果を生むといったこともあるかもしれません。
今後も1秒でも速くなるような自転車科学を続々と紹介していく予定です!
計算条件
上記計算に使用した条件です。
また、上記計算では速度向上後のケーブルに対する空気抵抗の変化を考慮していないため数値に若干のずれが生じることがあります。
※CdA:0.277[m^2]は、ドロップハンドルを握っている体勢における値です。