近年、急速にディスクブレーキが普及しており、各メーカーの上位モデルにリムブレーキモデルが無いことも珍しくありません。2021年のツールドフランスでもほとんどの選手がディスクブレーキを使用していました。
今回は空力と重量の面から果たしてリムブレーキとディスクブレーキどちらが速いのかを検証していきます。
今回紹介するのはスペシャライズドが2014年と2018年に行った実験、GCN、AeroCoachの行った計4つの実験です。
Specialized(2014年)
こちらの実験ではVenge(ヴェンジ)やTarmac(ターマック)など様々な最速バイクを生みだしてきたスペシャライズド本社にある風洞実験施設Win Tunnel(ウィントンネル)を用いています。まずは2014年に行われた実験を紹介します。(参考動画はこちら)
1.実験条件
使用するバイクはTarmac SL5を使用します。人が乗車した状態でフレームやポジションは全く同じにして、ブレーキのみを変更して、それぞれ比較します。
2.実験結果
正面からの風に対しては差は無いという結果になりました。
しかし、40km走行時に斜め10度の横風に対してはリムブレーキの方が8秒速いという結果になりました。
これはヨー角0度では空気抵抗に差は無く、ヨー角が10度の場合はディスクブレーキの方が8秒遅いということです。
ヨー角とは?ヨー角とは正面(進行方向)からくる風との角度の差(ズレ)をヨー角と呼びます。よって、真正面から吹いている青色の風はヨー角0度、赤色の風はヨー角10度となります。
Specialized(2018年)
スペシャライズドが2018年にリムブレーキとディスクブレーキ、どちらの空力性能が優れているのか再実験を行っています。果たして数値は変わっているのでしょうか…?(参考動画はこちら)
1.実験条件
前回はTarmac SL5で実験を行いましたが今回はTarmac SL6を用います。前回同様、ブレーキ以外の条件は全て同じです。
実験結果
40km走行時に正面の風に対してはディスクブレーキの方が8秒速いという結果になりました。
また、横風においてもディスクブレーキの方が4秒速いという結果になりました。
頭に?が浮かんでいると思います。2014年に実験を行った際はリムブレーキの方が速く、2018年に実験を行った際はディスクブレーキの方が速いという不思議な結果になっているのです。
考察は後ほどしますが、ひとまず残りの実験を紹介していきます。
GCN
実験条件
PINARELLOのF12を使用しています。先程同様、ブレーキ以外の条件は全て同じです。人が乗車しているパターンと乗車していないパターンで実験します。先に乗車時の結果から紹介します。(参考動画はこちら)
※GCNの実験結果をスペシャライズドに合わせて距離40kmを時速40kmで走行した際の短縮時間に変換して表記しています。
実験結果
40km走行時に正面からの風に対してリムブレーキの方が51秒速いという結果になりました。(GCNの実験結果である45km/hの時に16w削減から算出)参考動画はこちら
斜め10度の横風に対してリムブレーキの方が45秒速いという結果になりました。(GCNの実験結果である40km/hの時に10w削減から算出)
人が乗車しておらず、バイクのみでは正面からの風に対してリムブレーキの方が23秒速いという結果になりました。(GCNの実験結果である45km/h時に7w削減から算出)
AeroCoach
こちらの実験はGCNの動画内で述べていたことです。空力学のスペシャリスト「AeroCoach(エアロコーチ)」の代表であるザビエル・ディスリーさんにどちらが空力に優れているかを確認したところ、SCOTTのFOILを用いてベロドロームで実験した結果はリム・ディスク共にほとんど変わらない、実験誤差の範囲に収まるという結果になったそうです。
考察
これらの4つの実験を整理しましょう。
実験によって結果が異なっています。これの結果から導き出せるのは「どちらが空力に優れているのかはフレームの形状によってかなり違う」ということになると思われます。
また、それぞれの実験結果からリムとディスクによる空力的な差はどちらもあまり無いと思われます。これらは通常のリムブレーキでのテストですのでTREKのマドンやGIANTのプロペルのようなエアロ形状のリムブレーキの場合、ディスクブレーキより速い可能性は高いと思われます。
重量検証
速さというのは空力だけで決まるものでは無く、重量によっても異なります。一般にディスクブレーキのほうが200~400gほど重いです。
今回の計算ではGIANTのTCR ADVANCED PRO 1(リムブレーキモデルが7.1kg、ディスクブレーキモデルは7.4kg)を使用し、ディスクブレーキはリムブレーキに比べて300g重いとして検証します。
まずは平坦において300gの重さが速さにどれだけ影響するのを見ていきましょう。
非常に小さな数字になりました。これは時速40kmの出力で1時間走っても0.8秒しか差がつかないということです。平坦において速度差はほぼ無いと言っていいでしょう。
続いてはヒルクライムにおいてどこまで差が出るか検証していきます。
あまり、大きな差は無いと言っていいでしょう。勾配が10%でも時速0.07kmほどしか低下せず、300gというのはそれほど大きな差では無いということが分かります。
例えば、ヤビツ峠(距離11.8km、平均勾配5.5%)を281wで登った際のタイムはリムブレーキが35分17秒、ディスクブレーキは35分24秒になり、7秒短縮することが出来ます。
まとめ
リムブレーキとディスクブレーキに空力的な差はあまり無いことが分かりました。
また、ディスクブレーキによって生じる重さを300gと仮定した場合大きな差は生れません。長距離・急勾配のヒルクライムでは多少変わりますが、周回コースなどのアップダウンではほとんど影響が無いと言ってもいいでしょう。
参考動画はこちらからSpecialized(2014)、(2018)、GCN、AeroCoach
計算条件
上記計算に使用した条件です。また、数値に若干のずれが生じることがあります。
※CdA:0.277[m^2]は、ドロップハンドルを握っている体勢における値です。