一昔前は、あこがれの的だったパワーメーター。しかし、現在では「私のFTP〇〇W」という話を聞くぐらいには、ホビーレーサーにも普及してきました。
今回は、そんなパワーメーターがどんな原理でパワーを測っているのか解説していきます。一口にパワーメーターと言っても、最も一般的な歪みからパワーを測るもの以外にも、タイヤの空気圧の変化から計測するもの、空気抵抗から計測するもの、果ては心拍数から推定するものなど色々ありますが、今回解説するのは、歪みから計測するタイプのパワーメーターです。
そんな、歪みから計測するタイプにも自転車のどの部分の歪みから計測するかによって、クランク型、ペダル型、ホイール(のハブ)型、フレーム型など色々ありますが、おそらく一番普及しているであろうクランク型を主に取り上げ解説していきます。
さて、ここまで歪み、歪みと言ってきましたが、自転車が歪んでいるのなんて事故でも目撃したことある人でないと見たことないと思います。
自転車を漕ぐ際にペダルを踏みこみ、その時のパワーを測るのがパワーメーターですが、クランク(自転車)に力をかけているわけですから金属であろうが、目に見えないレベルで歪みます。その僅か歪みを検知するのがパワーメーターなのです。
ひずみゲージ
そんな僅かな歪みを計測するために、「ひずみゲージ」を使用します。(他の歪みを測定する機器には、光ファイバを利用したものもありますが、自転車に利用された話は聞いたことがありません)
また、ひずみゲージには、金属ひずみゲージと半導体ひずみゲージがありますが、自転車に利用されるひずみゲージは、金属ひずみゲージがメインです。そんな金属ひずみゲージ(以下ひずみゲージ)は、図1のような外見をしています。
図1 ひずみゲージの外見
構造は、薄い絶縁体のシートの上にジグザク状に金属抵抗体が取り付けられた構造をしています。このひずみゲージを図2のようにクランクの上に貼り付けることで、クランクが歪むと同率でひずみゲージも歪みます。(この時、歪みを正確に測定するためにクランクの塗装を剝がします)
図2
このように、クランクに貼られたひずみゲージは、クランクが歪み、引っ張られる力が加わると変形します。すると、ひずみゲージ上の金属抵抗体が伸び、断面図が減るため、電気抵抗が増加します。(逆に縮める力を加えると電気抵抗は、減少します)
ブリッジ回路
クランクの歪みによって、ひずみゲージの電気抵抗は変化しますがその変化は僅かなものなので、その僅かな抵抗の変化を測定するためにホイートストンブリッジ回路と呼ばれるブリッジ回路を利用します。
ブリッジ回路の回路図は、図3のようになっており。R1×R3=R2×R4という式が成り立つとき出力電圧は0ボルトとなります。
図3 ホイートストンブリッジ回路
図4 a:1ゲージ法 b:2ゲージ法
そこで、図4aのように、抵抗のうち一つをひずみゲージに交換すると、歪みによる抵抗の変化が出力電圧に反映され僅かな抵抗値の変化を測定することができます。しかし、1ゲージ法ではクランクに斜めの力が加わった際に誤差が生じてしまいます。
そこで、実際の製品ではひずみゲージを2個使う2ゲージ法や4個使う4ゲージ法を利用することで精度を高めています。ちなみに、クランク型パワーメーターで最も有名なパイオニアのパワーメーター(パイオニアは、2020年3月末にサイクルスポーツ製品から撤退してしまいましたが)は4ゲージ法を採用しているので、両側で8個のひずみゲージを利用していることになります。
パイオニア製クランク型パワーメーター「SGY-PM93OH」
引用:パイオニア株式会社ホームページより(パイオニアサイクルスポーツ | SGY-PM930H SGY-PM930HL SGY-PM930HR | パイオニア パワーメーター (pioneer-cyclesports.com))
「小話」 温度補正について:パイオニアのパワーメーターは値段が高いことでも有名ですが、その理由の一つとしてあげられるものに温度補正があります。クランクは金属なので気温0℃と30℃の環境で力を加えた際の歪みは、加えた力が同じだとしても違ってきます。
そこで、温度補正をする必要があるのですが、ヒルクライム等の1時間も経過しない内に大幅な温度変化がある環境では、誤差が大きくなってしまいます。この温度補正が他のパワーメーターよりパイオニアは優れており、急激な温度変化があっても誤差が小さいらしいです。
歪みからパワーを計算
ここまで、「自転車を漕ぐために力を加えるとクランクが歪む→ひずみゲージとブリッジ回路を利用しその歪みを検知。」という流れを説明してきましたが、最後に検知した歪みをパワーに換算する方法を説明します。
実際の製品では、様々な補正値を掛けていると思うので参考程度に読んでください。まずパワー(W)は、パワー=トルク×角速度という式から求めることができます。これを自転車に置き換えると、図5のようになります。
図5
つまり、パワーを求めるために角速度とトルクを算出する必要があります。角速度は、一秒間に進んだ角度なのでケイデンスが分かれば(1)式より簡単に求めることができます。
そして、トルクを歪みから求めます。式としては、(2)式からトルクを求めることができます。(2)式のうち歪みの変化量は、ひずみゲージからの数値でわかるので、あと求める必要があるのはスロープ値です。スロープ値は、(2)式を入れ替えた(3)式より既値の荷重(重り)を加えた際のトルクを計算より求めることで算出できます。
トルクを求める式は、トルク=重りの重量×クランク長×重力加速度となるので、スロープ値を求める式は、(4)式となります。(4)式からスロープ値を求めることができれば既値となるので、(5)式にあるように、ケイデンスとひずみゲージからわかる歪みの変化量からパワーを求めることができます。
このように既値の荷重を加えてスロープ値を求める方法は、実際のパワーメーターの校正でも使用されることがあります。
ここまで読んでくれてありがとうございます。<(_ _)>